岡崎ルネサンス

岡崎の“〇”にナるまちのものがたり

追進館メモリアル

インフォメーション
場所: 愛知県岡崎市美合町字並松1-2
ホームページ: http://www.pref.aichi.jp/soshiki/noudai/
追進館メモリアル

愛知県立農業大学校にあるレトロな建物、追進館(ついしんかん)。老朽化に伴い、惜しまれながらも今年度末(予定)に約82年の歴史に幕を閉じることになりました。この建造物の成り立ちや特徴、そして数々の思い出をご紹介します。

 

 

 

追進館を有するのは

この地に根付く農業大学校

 

 愛知県立農業大学校は、追進農場として創立されて以来、農業経営者や農業技術者をはじめとした農業界を牽引する人材を輩出している専修学校です。

 この地が農業の拠点となったのは、1910年(明治43)に軍用馬を育成していた「愛知種馬所」が北設楽郡から移設されたことに始まります。種馬所は県に払い下げられ、1923年(大正12)に家畜の改良や増殖を行う「愛知県種畜場」として創設。農村不況解消のため、農村指導者を育成する修練農場の設置が全国20か所で検討されると、岡崎では実習生制度を取り入れていた種畜場と併せるかたちで、1934年(昭和9)に「追進農場」が誕生したのです。1970年(昭和45)には他部門を統合して「追進営農大学校」となり、1984年(昭和59)には「農業大学校」と改称され、現在に至っています。

緑豊かな環境がうかがえる正門前。8専攻(鉢物・緑花木、切花、作物、果樹、露地野菜、施設野菜、酪農、養豚・養鶏)において、2年間の実践教育が行われています

 

2002年(平成14)に完成した中央教育棟。入学式の会場としても使える大講義室などを備えています

 

 

 

人々に望まれた大講堂の

記憶すべき特徴や意匠

 

 追進館は愛知県追進農場の講堂として、創立の翌年である1935年(昭和10)の10月27日に落成しました。種畜場時代の実習生と講習会修了生によって結成された「追進会」の会員や地域住民が“大講堂の建設運動”を巻き起こし、県当局がその要望を受け入れて建設されたのです。そのため、入学式や卒業式、謝恩会、文化祭などの学校行事はもちろん、一般のかたを対象とした多くの催し物にも使用されたそうです。

昭和28年の追進農場の卒業式。壇上に愛知県立安城農林学校(現在の県立安城農林高等学校)の初代校長である山崎延吉先生が祝辞を贈る姿があります

 

北側の中央には、緑の中に張り出した切妻屋根の白い正面玄関があります

 

外壁の板張りの濃茶色と、各窓枠とその上下の平行に走る線はペンキ塗りの白色。青空に映える、そのコントラストが見事です。当時はもっと鮮やかだったのでしょう

 

 

 建物は大正から昭和初期に流行したアールデコのデザインを取り入れた、セメント瓦葺きの木造平屋建て。東西に長い造りと、濃茶色と白色の配色、また木造による大架構建築の工夫が特徴的といえます。建築面積は490.49㎡と、当時としてはかなりの大規模建築だったことも特筆すべきことです。内部にはステージを備えており、床は碁盤目地入りのコンクリ―トモルタル仕上げ。中柱を使用しないことで広々とした空間が確保されており、そのためアーチ型の天井の梁の美しさが際立っています。

平面図。正面玄関から入って右手奥にステージが設置され、ステージ裏には2つの部屋がありました。南側の部屋が貴賓室でした

 

中柱を使用しない造り。漆喰塗りの天井の曲線が美しいです

 

貴賓室の天井四隅に配された鳳凰の透かし板彫り

 

切妻屋根の先端上部を隅切りした半切妻屋根

 

 

 

自慢となる逸話を残す

地元の人に愛された建物

 

 この建物には、ぜひ知っておいてほしいエピソードがあります。1946年(昭和21)に、戦災からの復興に向けて立ち上がる国民を激励するための昭和天皇の巡幸があり、追進農場もその訪問地のひとつになりました。その際に追進館の貴賓室が天皇陛下の休憩所として使用されたのです。また2006年(平成18)に放送されたNHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」のロケ地にも選ばれ、女優の宮崎あおいさん演じる主人公が追進館のステージでピアノ演奏をするシーンの撮影もありました。

 岡崎市制100周年記念事業『岡崎まちものがたり』の作成時に「天皇陛下がご休憩されたんだよ」「NHKの朝ドラのロケに使われたんだよ」と、地元で暮らす緑丘学区の作成委員のみなさんが笑顔になって話してくれました。農業を目指す有能な若者が各地から集まってくる学校は地域の自慢であり、さらに追進館は地域を元気にしてくれた思い出の場所なのです。また現在は体育館で行われている農畜産物の実習販売も約10年前までは追進館で実施されており、住民にとっては馴染み深く、愛すべき建物だったのです。

天皇陛下が休憩された貴賓室。天井の隅に鳳凰のレリーフが見えます

 

NHK朝の連続テレビ小説「純情きらり」ロケ地の記念プレートは正面玄関脇に残されています

 

朝採れの果物や野菜などがお値打ちに購入できる、学生による毎週水曜日の実習販売。15時の開始から20分ほどで品薄になってしまうそうです

 

 

 

農業を志す者の熱き心を

表現していた「追進」

 

 「追進」の言葉は、愛知県の農業発展に尽力し、農民の父と称された山崎延吉(やまざきのぶきち)先生が命名したものです。「後なる者は先なるものを追い越し、前進せねばならない。追進せよ」の言葉が由来となり「常に時代の先端となることを目指し、先なる者に迫り、前進すべし」の意味が込められているのだとか。

 「“追進”ってなんだろう?」と、頭の片隅で考えていた私は、自分の想定を超えた深い意味を教えてもらい、農業発展に対する熱意のこもった言葉に思わずグッときてしまいました。農業を志して追進館に集った人々の思いや、そして、そこで繰り広げられた数々のドラマを想像すると「追進館、ありがとう」の言葉が浮かぶのでした。

山崎先生直筆の「追進」の文字がしたためられた色紙は、今も校長室に飾られています

 

 

 

 

 

〇参考文献

「農大だより」平成27年2月号・3月号/編集発行:愛知県立農業大学校

「新編岡崎市史」/著者:新編岡崎市史編集委員会

 

〇取材協力

愛知県立農業大学校

 

〇追進館に関する問合せ先

名称:愛知県立農業大学校

電話:0564-51-1601

※毎週水曜日の実習販売は15時より開始。(開催日はHPにてご確認の上お出かけください)

 

〇関連学区まちものリンク

緑丘学区 緑丘学区まちものがたり

 

〇ライター:小嶋かおり

愛知県豊田市(山間部)出身。三河を中心としたタウン誌の編集に始まり、フリーランスとなって東海地方の旅の情報誌を中心に執筆。生家を出て初めて住んだ場所も、高校も、初就職も、現在の出没地も岡崎…「隠れ岡崎市民」を自負しております。

 

〇掲載日

2017年8月17日

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